先日検査に行ってきた母に、ちょっとした病気が見つかったという。
咄嗟に、わたしのせいも何割かは入っているのだろうな、と思う。
母は苦言をいわなくなったけど。
いろんな意味で期待されてわたしは生まれ、育てられ、
いろんな意味でいま失望されているのを、わたしは知っているからだ。
親だし、子だし、仕方がないことなんだろうとは思う。
仕方がないけど、わたしは母ではないのだった。
期待というものを、(それがあったとしての話だけれど)
ある程度知らんぷりしないと、わたしはいられなくなるから、
少し、知らんぷりして、
そしてできる親孝行というものを考えよう、と思って、
でもまだ感情は追いつかなくて、胸が痛くなったりして、
いつもほどごはんがおいしくなかったのだった。
2012年9月30日日曜日
9月28日
みどりちゃんの住む町へ。
インド料理やさんの、明るい窓辺でランチをたべて、たっぷり2時間くらいくつろぐ。
みどりちゃんは、魔法瓶にお白湯を入れて持ってきていて、紙コップについでくれた。
きちんと20分間沸かされたお白湯だった。
リサイクルショップをのぞいて、ノリタケのめずらしいデミタスカップや、
ソニア・リキエルのちょっとキッチュなブローチが格安価格で置かれているのを発見して驚いたり、
軽い山登りをして、徐々に澄んで濃くなる空気のレイヤーをとおりぬけて、
ぱっと開けたところにある、清荒神さんにお参りしたり、
山をおりて、鯨のようなかたちのカトリック教会にみとれたり、
こじんまりとちょうどいい大きさの街に入って、ふしぎなアートセンターの蔵書をながめたり。
夜は、お風呂やさんへ行った。
みどりちゃんが選んで貸してくれた、生まれてはじめて着る花柄の水着で、
エレベーターで最上階へあがり、
ホテルの屋上のプール(そんなところへ行ったことはないけれど)みたいな露天風呂に浸かって、丸くくり抜かれた打ちっぱなしのコンクリートごしの夜空をながめたり。
丸い形のお風呂、丸く抜かれた天井。
丸いコンクリートの穴と、その向こうがわに広がる濃い夜空の境い目を、
お風呂に浮かびながら見ていると、
浮かんでいながら向こうへ落ちていきそうな、
子どものときによく感じた、あの感じがした。
丸いお風呂から出て、夜風にさらされながら街のあかりのほうへ寄ると見えた、丸い月。
高い場所で、お互いにぬれた水着で、ならんで風にふかれて街や月を見る、へんてこな感覚は、
未来がもっとたのしみになるような気持ちにも、させてくれた。
たっぷりと芯までぬくもって、そのぬくもりがなくならないようにストールを巻いて、
最終電車に乗った。
インド料理やさんの、明るい窓辺でランチをたべて、たっぷり2時間くらいくつろぐ。
みどりちゃんは、魔法瓶にお白湯を入れて持ってきていて、紙コップについでくれた。
きちんと20分間沸かされたお白湯だった。
リサイクルショップをのぞいて、ノリタケのめずらしいデミタスカップや、
ソニア・リキエルのちょっとキッチュなブローチが格安価格で置かれているのを発見して驚いたり、
軽い山登りをして、徐々に澄んで濃くなる空気のレイヤーをとおりぬけて、
ぱっと開けたところにある、清荒神さんにお参りしたり、
山をおりて、鯨のようなかたちのカトリック教会にみとれたり、
こじんまりとちょうどいい大きさの街に入って、ふしぎなアートセンターの蔵書をながめたり。
夜は、お風呂やさんへ行った。
みどりちゃんが選んで貸してくれた、生まれてはじめて着る花柄の水着で、
エレベーターで最上階へあがり、
ホテルの屋上のプール(そんなところへ行ったことはないけれど)みたいな露天風呂に浸かって、丸くくり抜かれた打ちっぱなしのコンクリートごしの夜空をながめたり。
丸い形のお風呂、丸く抜かれた天井。
丸いコンクリートの穴と、その向こうがわに広がる濃い夜空の境い目を、
お風呂に浮かびながら見ていると、
浮かんでいながら向こうへ落ちていきそうな、
子どものときによく感じた、あの感じがした。
丸いお風呂から出て、夜風にさらされながら街のあかりのほうへ寄ると見えた、丸い月。
高い場所で、お互いにぬれた水着で、ならんで風にふかれて街や月を見る、へんてこな感覚は、
未来がもっとたのしみになるような気持ちにも、させてくれた。
たっぷりと芯までぬくもって、そのぬくもりがなくならないようにストールを巻いて、
最終電車に乗った。
2012年3月2日金曜日
1月13日
とうとう、完全に、携帯電話がこわれた。
ひとつき以上前から、こわれかけているのをだましだまし使ってきた。
携帯電話をもつのを、もう辞めようかなと思ったりもしていた。
きょう、もう二度と、電源が入らないようになった。
電話のいのちがもえつきるまで使ったような気がして納得し、
観念してお店へむかう。
お店で、あたらしい電話について、
まずどんな手続きをして電話帳をとりこんで、とか、
いろんな面倒そうな話をきく。
ひとりで実行する時にぜったい思い出せなくなりそうな操作があったから、
しつこいとおもうぐらい店員さんにたしかめておく。
「だって、このくらい分からないひとだっているもん」とひらきなおって、
わかるまでしつこくきいておこうって思ったのだった。
そうして黒い分厚い電話をお店のひとに渡して、
あたらしい白い電話をうけとったのだった。
いままでとはぜんぜん、てのひらにうけるおおきさも、重みも、温度も、ちがう。
電話を変える手続きはだいきらい。
でも、新しい電話は、やっぱりとても便利なものだってことを、知ってしまった。
電話がかわるときって、ちょっと、自分のなかでひとつの長い季節がおわった気分になる。
ひとつき以上前から、こわれかけているのをだましだまし使ってきた。
携帯電話をもつのを、もう辞めようかなと思ったりもしていた。
きょう、もう二度と、電源が入らないようになった。
電話のいのちがもえつきるまで使ったような気がして納得し、
観念してお店へむかう。
お店で、あたらしい電話について、
まずどんな手続きをして電話帳をとりこんで、とか、
いろんな面倒そうな話をきく。
ひとりで実行する時にぜったい思い出せなくなりそうな操作があったから、
しつこいとおもうぐらい店員さんにたしかめておく。
「だって、このくらい分からないひとだっているもん」とひらきなおって、
わかるまでしつこくきいておこうって思ったのだった。
そうして黒い分厚い電話をお店のひとに渡して、
あたらしい白い電話をうけとったのだった。
いままでとはぜんぜん、てのひらにうけるおおきさも、重みも、温度も、ちがう。
電話を変える手続きはだいきらい。
でも、新しい電話は、やっぱりとても便利なものだってことを、知ってしまった。
電話がかわるときって、ちょっと、自分のなかでひとつの長い季節がおわった気分になる。
1月12日
仕事をしながら、社長といろいろ話す。
社長は厄年のときに会社を設立したのだそうだ。
「わたしは、厄年っていうのは、わるいことがおこる年っていうふうにはおもってなくて、
何か越えるべきものを越える年っていう感じでとらえてて。
会社を作ったとき、厄年だっていうのは知らなかったんだけど、
でも、やっぱり、ほんとうにその年はしんどかったのね。
あとになって、いちばんしんどいときにあれだけ頑張れたっていうことがわかって、
それはすごく自信になったの」
わたしは、そういう話をきいているのがとても好きだ。
だって、ほんとうに社長はそうやって、ここまでやってきたんだもの。
目の前にあることを、ああでもない、こうでもない、こうしてみたらどうだろう?って、
いちから自分で考えて、一個ずつたしかめて。
だけどそれって、きくとやるじゃ、大違い。
仕事中のわたしは、いつも不安におののいている。
いつだってはじめてのことと答えのないことばかりで、
絶対だいじょうぶなことなんて、なにひとつないんだもの。
おののきながら、一歩ずつ、吊り橋をわたるような気持ちで、いつも、いる。
社長もこんなときがあったのかなあ、とおもいながら。
社長は厄年のときに会社を設立したのだそうだ。
「わたしは、厄年っていうのは、わるいことがおこる年っていうふうにはおもってなくて、
何か越えるべきものを越える年っていう感じでとらえてて。
会社を作ったとき、厄年だっていうのは知らなかったんだけど、
でも、やっぱり、ほんとうにその年はしんどかったのね。
あとになって、いちばんしんどいときにあれだけ頑張れたっていうことがわかって、
それはすごく自信になったの」
わたしは、そういう話をきいているのがとても好きだ。
だって、ほんとうに社長はそうやって、ここまでやってきたんだもの。
目の前にあることを、ああでもない、こうでもない、こうしてみたらどうだろう?って、
いちから自分で考えて、一個ずつたしかめて。
だけどそれって、きくとやるじゃ、大違い。
仕事中のわたしは、いつも不安におののいている。
いつだってはじめてのことと答えのないことばかりで、
絶対だいじょうぶなことなんて、なにひとつないんだもの。
おののきながら、一歩ずつ、吊り橋をわたるような気持ちで、いつも、いる。
社長もこんなときがあったのかなあ、とおもいながら。
1月11日
ろくろう君夫妻から年賀状がきている。
鳥の絵と、はっぱのシール、それから、なにかとても、不思議な絵。
黒のほそい線で描かれている。
なんだろう、夢のなかの話のような、
よくわからないけどひとには言っちゃいけない、内緒話なんだな、という感じ。
ふしぎだから、ろくろう君にメッセージをおくってたずねてみた。
わたし 「あの不思議な絵がとても気になって、メッセージをおくってしまいました」
ろくろう君「じつは、ピーコにもらった年賀状に触発されて、二人で一緒に絵を描いてん。
伝わるもんなんやなあ。うれしいわ。」
なにか、黄色い温かい感じが、胸のおくのほうから、じわーっとしみでてきて、
体中をとりかこんでくる。
ろくろう君夫妻とはめったに会わない。
けれど、そんなふうにがつーんと、心と心で握手するようなことが、ごくたまに、おこる。
わたしはときどき、去年の春の展覧会をみてくれたろくろう君が、
握手しよう、と手を差し出してくれたことをおもいだす。
おもいだすとやっぱり、なにか、黄色い温かい感じが、じわーっと出てくる。
鳥の絵と、はっぱのシール、それから、なにかとても、不思議な絵。
黒のほそい線で描かれている。
なんだろう、夢のなかの話のような、
よくわからないけどひとには言っちゃいけない、内緒話なんだな、という感じ。
ふしぎだから、ろくろう君にメッセージをおくってたずねてみた。
わたし 「あの不思議な絵がとても気になって、メッセージをおくってしまいました」
ろくろう君「じつは、ピーコにもらった年賀状に触発されて、二人で一緒に絵を描いてん。
伝わるもんなんやなあ。うれしいわ。」
なにか、黄色い温かい感じが、胸のおくのほうから、じわーっとしみでてきて、
体中をとりかこんでくる。
ろくろう君夫妻とはめったに会わない。
けれど、そんなふうにがつーんと、心と心で握手するようなことが、ごくたまに、おこる。
わたしはときどき、去年の春の展覧会をみてくれたろくろう君が、
握手しよう、と手を差し出してくれたことをおもいだす。
おもいだすとやっぱり、なにか、黄色い温かい感じが、じわーっと出てくる。
1月10日
朝、全身にオイルマッサージを施す。
これは、アーユルヴェーダの健康法。
いったん100℃くらいまで熱して、さました太白ごま油が瓶に保管してある。
それをつかう。
てのひらのくぼみにとうめいな油を受けて、両方のてのひらでこすりあわせ、
すこしずつ、
あたまのさきから、あしのゆびさきまで。
耳のあなとか、鼻のあなにもぬる。
ぬりかたにも、少し、順番やきまりがある。
ときどきまちがえたり、とばしたりする。
油をぬりおわったら、
そのまましばらく、からだをあたたかくして待つ。
ものの本では、このときにオイルが皮膚から骨にまで浸透していくのだということだ。
その後、お風呂に入る。
このマッサージをときどきおこなう。
おこなったあとは、からだのかたくつかれていたところがやわらかくなって、
つかれていたところのまわりの空気に、ぼわーんとなにかがしみだしているみたいになる。
ぼわーんとしたあと、じょじょに軽くなってくる。
はじめてこれをしたときは、ぼわーんどころか、どっすーん、といった感じになってびっくりした。
ものぐさなわたしは、これをするとき、ぜんぜんうきうきしたりはしなくって、
ちょっと億劫にさえおもいながら、ただ淡々とおこなうだけだけど、
おわるといつも、ああよかった、やってよかった、としみじみおもう、
そのくりかえしだ。
これは、アーユルヴェーダの健康法。
いったん100℃くらいまで熱して、さました太白ごま油が瓶に保管してある。
それをつかう。
てのひらのくぼみにとうめいな油を受けて、両方のてのひらでこすりあわせ、
すこしずつ、
あたまのさきから、あしのゆびさきまで。
耳のあなとか、鼻のあなにもぬる。
ぬりかたにも、少し、順番やきまりがある。
ときどきまちがえたり、とばしたりする。
油をぬりおわったら、
そのまましばらく、からだをあたたかくして待つ。
ものの本では、このときにオイルが皮膚から骨にまで浸透していくのだということだ。
その後、お風呂に入る。
このマッサージをときどきおこなう。
おこなったあとは、からだのかたくつかれていたところがやわらかくなって、
つかれていたところのまわりの空気に、ぼわーんとなにかがしみだしているみたいになる。
ぼわーんとしたあと、じょじょに軽くなってくる。
はじめてこれをしたときは、ぼわーんどころか、どっすーん、といった感じになってびっくりした。
ものぐさなわたしは、これをするとき、ぜんぜんうきうきしたりはしなくって、
ちょっと億劫にさえおもいながら、ただ淡々とおこなうだけだけど、
おわるといつも、ああよかった、やってよかった、としみじみおもう、
そのくりかえしだ。
2012年2月25日土曜日
1月9日
西宮北口の駅構内を通るのは、震災の直後以来だ。
高校を卒業するまでは毎日乗っていた、この路線。
北といわれれば山を登れば良いのだし、
南といわれれば海へ降りれば良いのだった。
山から海へむかう風にふかれて、白い土ぼこりのつく、黒い革靴。
大学生になって京都へ移り住んだとき、
風が吹かないのがものすごく気持ち悪い と思ったことを思い出す。
坂道を少しのぼって、それからしばらく斜めにくだって、
段差の高い階段を随分と昇ってからやっと、インターホンを押した。
息が切れ、膝に手をついて、呆然とあまりにひらけた景色をみていたら、
ガラス張りの1階へと階段を降りてきたねこさんが、ガラスの扉にかかっている鍵を開ける一部始終がみえる。
「あけまして おめでとうございます」と息をきらしたまま挨拶する。
この、あたらしいふしぎな家を、おそるおそるみせてもらう。
南側は、はるか下方へと、神戸の海が見渡せる。
北側はきりたった雑木林だ。
ひとしきりながめて、「はあ。。。すごいなあ。。。」としか言えないわたし。
「なんか、するって言ってへんかった?」
「うん、持ってきた。やっていい?」
「ええよ」
わたしは四角いテーブルに持ってきたものをどんどん並べていく。
いろいろな色の石と、銀のはりがねと、ペンチが3種類。
それから、石をいれる、三角のちいさい皿。
四角いテーブルいっぱいを占領してしまった。
どこからか黒い四角いエフェクターのケースがでてきて、もうひとつのテーブルがわりになる。
年末年始の話をしながらアップルパイを食べ、お茶をのむ。
その後わたしはアクセサリー作り。ピアスを一組。
ピンクの石と、緑の石をくみあわせる。
ピアスができあがり、つぎはネックレスにとりかかる。
ねこさんは、音楽をかけたり、引っ越しの荷物をかたづけたりしている。
もくもくと作っていたら、すっかり日が暮れていて、
ねこさんが、「暗いやろ」と、あちこちのライトをつけてくれた。
ふと目をあげたら、ちょうどわたしの座っていたところから、真っ正面のガラス越しに、丸いオレンジ色のひかりがみえる。
「あれ、月かな、ライトのうつりこみかな、どっちかな」
「あれは、月やな」
えらく大きな、満月だった。
ネックレスの続きにとりかかっていたら、
流れている音楽にあわせてなんとなく動いていたねこさんの足が、
すうっとうごかなくなった。
眠っていると知ってちょっとびっくりしたけど、気にせずネックレスをつくった。
完成したころ、ねこさんが、夕飯をつくろうかという。
冷蔵庫の中にあるもので、パスタ。
「えっと、何をどうしたらいいんかな。段取り考えるわ」というねこさん。
ねこさんという人は、段取りをかんがえるのがうまい。
いつでもなんでも、段取りというものをかんがえているように、みえる。
どこをどうてつだったらいいのか、よくわからなかったけど、
大根をすりおろしたり、いためるのをてつだったり。
パスタは2種類できて、どちらもおいしかった。
「今年は、良い年になるといいねえ」
「うん。」
テーブルにならべた石をながめる。
とくに理由もなく、ねこさんに「4つえらんで。」と言うと、
ねこさんは、赤い珊瑚と、ラブラドライトと、アマゾナイトと、両剣水晶をえらんだ。
えらびかたが、とてもはやかった。
4種類の石たちをならべて、「きれい。」といいながら、
これは何か、知っている色合いだなという気がしたが、さして気にとめなかった。
夜がふけて、ガラスの家をでた。
帰りの電車の中で、ふっと思い出す。
ねこさんがえらんだあの4種類の石の色は、
お正月にみた夢の中で、わたしが描いていた油絵の色あいとおなじなのだった。
描いていたのは、両剣水晶みたいなかたちの、クリスタルの絵だった。
何か知ってる、とおもったのはそういうわけか、と納得した。
高校を卒業するまでは毎日乗っていた、この路線。
北といわれれば山を登れば良いのだし、
南といわれれば海へ降りれば良いのだった。
山から海へむかう風にふかれて、白い土ぼこりのつく、黒い革靴。
大学生になって京都へ移り住んだとき、
風が吹かないのがものすごく気持ち悪い と思ったことを思い出す。
坂道を少しのぼって、それからしばらく斜めにくだって、
段差の高い階段を随分と昇ってからやっと、インターホンを押した。
息が切れ、膝に手をついて、呆然とあまりにひらけた景色をみていたら、
ガラス張りの1階へと階段を降りてきたねこさんが、ガラスの扉にかかっている鍵を開ける一部始終がみえる。
「あけまして おめでとうございます」と息をきらしたまま挨拶する。
この、あたらしいふしぎな家を、おそるおそるみせてもらう。
南側は、はるか下方へと、神戸の海が見渡せる。
北側はきりたった雑木林だ。
ひとしきりながめて、「はあ。。。すごいなあ。。。」としか言えないわたし。
「なんか、するって言ってへんかった?」
「うん、持ってきた。やっていい?」
「ええよ」
わたしは四角いテーブルに持ってきたものをどんどん並べていく。
いろいろな色の石と、銀のはりがねと、ペンチが3種類。
それから、石をいれる、三角のちいさい皿。
四角いテーブルいっぱいを占領してしまった。
どこからか黒い四角いエフェクターのケースがでてきて、もうひとつのテーブルがわりになる。
年末年始の話をしながらアップルパイを食べ、お茶をのむ。
その後わたしはアクセサリー作り。ピアスを一組。
ピンクの石と、緑の石をくみあわせる。
ピアスができあがり、つぎはネックレスにとりかかる。
ねこさんは、音楽をかけたり、引っ越しの荷物をかたづけたりしている。
もくもくと作っていたら、すっかり日が暮れていて、
ねこさんが、「暗いやろ」と、あちこちのライトをつけてくれた。
ふと目をあげたら、ちょうどわたしの座っていたところから、真っ正面のガラス越しに、丸いオレンジ色のひかりがみえる。
「あれ、月かな、ライトのうつりこみかな、どっちかな」
「あれは、月やな」
えらく大きな、満月だった。
ネックレスの続きにとりかかっていたら、
流れている音楽にあわせてなんとなく動いていたねこさんの足が、
すうっとうごかなくなった。
眠っていると知ってちょっとびっくりしたけど、気にせずネックレスをつくった。
完成したころ、ねこさんが、夕飯をつくろうかという。
冷蔵庫の中にあるもので、パスタ。
「えっと、何をどうしたらいいんかな。段取り考えるわ」というねこさん。
ねこさんという人は、段取りをかんがえるのがうまい。
いつでもなんでも、段取りというものをかんがえているように、みえる。
どこをどうてつだったらいいのか、よくわからなかったけど、
大根をすりおろしたり、いためるのをてつだったり。
パスタは2種類できて、どちらもおいしかった。
「おとといから1週間、休暇やねん、半年に一回」
「ああ。。。まえの休暇は、7月の終わりだったもんね、もう半年か」
「ようおぼえてるな」
「だってあのとき、レイさんのことがあって、ねこさんに電話かけて。
平日の昼間だったから、てっきり仕事中だと思ったら、寝てた。」
「せやったな。あのとき、電話で何をいわれてるんか、全然わからんかったんは、
寝てたからやったんか、そうじゃなかったんか。。」
「あの日は、誰に電話しても、みんな、何をいわれてるんかわからんという反応だった」
「でも、ようおぼえてんなあ。僕、なんでこんなすぐ、なんでも忘れるんやろ。。」
「そのほうがいいよ。いろんなことおぼえてるとしんどいから、日記書いたりするんだよ」
と言ったら、ねこさんはちょっと笑っていた。
「今年は、良い年になるといいねえ」
「うん。」
テーブルにならべた石をながめる。
とくに理由もなく、ねこさんに「4つえらんで。」と言うと、
ねこさんは、赤い珊瑚と、ラブラドライトと、アマゾナイトと、両剣水晶をえらんだ。
えらびかたが、とてもはやかった。
4種類の石たちをならべて、「きれい。」といいながら、
これは何か、知っている色合いだなという気がしたが、さして気にとめなかった。
夜がふけて、ガラスの家をでた。
帰りの電車の中で、ふっと思い出す。
ねこさんがえらんだあの4種類の石の色は、
お正月にみた夢の中で、わたしが描いていた油絵の色あいとおなじなのだった。
描いていたのは、両剣水晶みたいなかたちの、クリスタルの絵だった。
何か知ってる、とおもったのはそういうわけか、と納得した。
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