水は冷たいけれど不快ではなく、妙に私をわくわくさせている。砂が足の指のあいだに入り込んで、水が私の骨張った足先を撫でてきて、それからくるぶしをぴしゃっと打って、ふくらはぎをのぼってくる。私の膝に吸いつき、太ももを這い上がってくる。よじのぼってくる虫みたいにくすぐったくて、それから突然、パンツに届くとそれは氷だ。冷たさがお腹に広がってきて、私の水着は何かがこぼれたみたいな色になって、それからバシャッ、ザバッ、と来たと思うと水は引いていって、波は戻っていく。肌は冷たい点々がくっついたみたいだ。私はじっと同じ場所に立っているが、水は来たり帰ったりしている。水着に水がしみ込むのがわかる。水のきらきらした表面を、手のひらで撫でてみる。両手が冷たく、つるつるして、私はさらに先へ進む。
と、いきなり水は胸の高さになって、私はうしろによろける。ほとんど転んだみたいな感じに、体が回り、転がり、私はふたたび空を見上げていて、それから口と鼻に水が入って私はくるくる沈んでいく。それから目をぱちくりさせごほごほ咳き込み、泡を吹き、また立っている。水の表面が見えて-------泡立ってクリームのようだ--------それから足が底を全然感じられなくなって--------体が宙吊りになっている-------それからまた転がり、濡れたもののなかに、その口と手のなかに私は閉じ込められる。それは私をくるみ込み、転がし、私は転がりながらそれのなかに入っていく。その口のなかで、海草の切れはしや葉っぱや紐みたいなものやゆらゆら揺れるものが見え、それから何かに持ち上げられて-------私はハッと空気を呑む------それからまた降りて、息もせずに、目の前が暗くなっていく--------
自分が別の何かに、何ものにもつながっていない何かになった気がする。私は海草、葉っぱ、紐みたいなもの、肌のないもの、水。
何かが私をさらに下へ吸い寄せる。片手と胸が沈んでいる。水は暗い。私は蹴り、ばたつき、わめこうとあがき、息をしようとあがく-------沈んでいく。
目の前に自分の髪の毛の先っぽが見える。髪の端が海草みたいに揺れている。両手が押そうと、つかもうとあがいて--------
誰がたすけてくれたのかはわからない。誰に連れ戻されたのかはわからない。
(レベッカ・ブラウン 著 「自分の領分」 2004年)