わたし「センタービルの、何号館?」
社長 「4号館より、向こう!」
わたし「4号館って、西?東?」
社長 「堺筋から西!」
外に出た途端にどしゃぶり。
道路が川のよう。
ずぶぬれて駆け込んだコンビニで、店員さんに同情の声をかけられながら傘を買う。
センタービルの中に入るのは、はじめてなのだ。
既にシャッターを閉め始めた店舗もある。
ああ みつからなかったらこまるなあと、脈拍がはやくなる。
あと10分で閉館、というときに、赤い綿の生地がさっと目に入って、
奥で新聞を読んでいたおじいさんに声をかけた。
わたし「(生地の見本をみせて)この生地の地の色とおなじような赤の色の、綿の生地をさがしてるんですけど」
店主 「・・・・・これとおなじプリントさがしてんの?」
わたし「プリントじゃなくて、地の色と同じような色の無地のをさがしてるんです」
店主 「・・・・・この色は、特殊な色やで。こんな色のは、無いで。
倉庫にやったら、あるかもしれんけどな。明日やったら、出せるけどな。」
(「特殊な色」。そのとおりです。
これは、さっきまでずーっと色合わせに苦労していた、赤のプリント生地なんだもの。
赤をパントーンに合わせて生地にプリントするの、すごくむつかしかったんだもの。)
わたし「お客さんの依頼で、きょう中に要るんです」
店主 「・・・・・ここにある分で、あんたが、ええと思うようなやつが、あったら、それにしい。」
おじいさん、聴こえてないのかな と思うくらいの間が空いてから返事をしてくれる。
なんだかはらはらする。
このへんかな、とさがしていたら
店主 「これが、いちばん、近い色やと思うで。これが合わへんかったら、もう、無い。」
わたし「(うっ 全然ちがう おじいさん、ひょっとして、目が・・むにゃむにゃ・・)
うーん、ちょっとこれは、むらさきですね。」
店主 「・・・・・そうか。ほんなら、あんたが、納得するやつがあったら、それにし。」
わたし「はい。・・・・・ごめんなさい、こっちにします」
店主 「・・・・・これか?・・・・・・これが、あんたの、イメージに合うんか?」
わたし「はい。これをください」
店主 「・・・・・これ、どうすんの。なんかの、敷きもんに、すんの?」
わたし「中国に送るんです」
店主 「・・・・・中国に、送んの。たいへんやな。」
わたし「領収書、ください。」
店主 「・・・・・領収書、要んの。」
わたし「はい。」
店主 「・・・・・お名前は、どうすんの。」
わたし「空けといてください。」
店主 「・・・・・空けとくの。」
わたし「はい。」
だんだんおじいさんのテンポがツボにはまってきた。
いい人だったな。
ほんとにこの生地でよかったんだろうか、と心配しながら会社に帰った。
いい人だったな。
ほんとにこの生地でよかったんだろうか、と心配しながら会社に帰った。
きょうから、9月。