朝、鼻うがいをしたら、奥のほうにたまっていたものがたくさん、ひといきに全部出て、
ああ 幸先がいいなとおもった。
蓮村さんといっしょに、くるみちゃんに会いにいくのだ。
くるみちゃんには、9年ほど前にCDを出版したときにお世話になった。
蓮村さんはその時期、たくさんのチャーミングなレビューを書いてくださった。
月日はながれ、わたしたちはほうぼうへ散り、結婚や出産などを経て(わたし以外は、ということだが)
今日再会する。
蓮村さんの愛娘みくちゃんとともに、話に夢中になって電車を乗り過ごしたりしながら、
なんとかくるみちゃんの待つ駅に着くと、
おもかげかわらない、なつかしい、ねこむすめのようなくるみちゃんが、
細面のきれいな顔した少年と立っていた。
この子が、サクくんなんだ。
こんなに大きくなるまで会えなかった。やっと会えた。
胸がぎゅっとなった。
「いらっしゃい」とほほえむくるみちゃんの、鈴のなるような声。
蓮村さんと、みくちゃんと、くるみちゃんのお手製のおいしい小松菜のポタージュや豆入りのサラダ、
お土産にもっていったオリーブ入りのパンとワイン、
そしてケーキもたべる。
サク君は、ごはんはすませたといって、少しはなれたテーブルでお善哉を食べたりしている。
元気いっぱいで、非常にしぶいお笑いのセンスをもった三歳のみくちゃんとの会話に、
女どうし三人の会話をはさんでおりまぜて、
わたしたちの会合はすすんだ。
二階から走りおりてきたサク君の、「雪降ってる!」の声に、
全員で二階へあがって、グレーの空からおちてくる牡丹雪にしばしみとれる。
「初雪かも」
「初雪だね」
最近ピアノを習いはじめたサク君のキーボードで、
みくちゃんのリクエストの「ゲゲゲの鬼太郎」を弾き、
サク君が今大好きな、タンタンの本をみせてもらったりする。
サク君は、どのシーンがすきか、読み上げて教えてくれた。
わたしもタンタンシリーズは大好きだったので、
一緒にハドック船長のセリフを言ったりしてあそんだ。
少しずつサク君がうちとけてくれるのが、なんだかたまらなくうれしい。
わたしたち三人。
いろいろな事情でいろいろなつらい時期を似た期間にすごしていたことを知る。
そして三人とも、これから新しい場所へじぶんじしんを開いていこうとしていることを、
お互いに感じている。
わたしは、少しはなれたところにいる親友が、最近すばらしいものを書いたことを、
ふたりに話してしまった。
ふたりはとてもおどろき、そして、よろこんでいた。
人をつきうごかして、これをせねば、とおもわせるもの。
ときにそこには恐れや不安がつきまとって、ひとをうごけなくさせるけど、
それをこえて行動したとき、見える世界は少し変わっている。
このごろ、周囲にいるひとたちがどんどんそのようなあゆみかたをしはじめているように
おもえてならない。
そのひとつひとつを、うつくしいとおもう。
遅くまではなしこみ、あわてて帰る。
サク君に「サク君のおかあさんを独占してごめんね。またあそぼう!」
と言ってわかれた。