朝、階下の様子に異変をかんじる。
2階のじぶんの部屋でわたしはいつも、階下の様子をかんじている。
両親の尖りに尖った言い争いとか、
なんとなくわたしのことを話題にされている感じとか、
そういうとき、わたしはなかなか部屋から出ない。
きょうもわたしは出るタイミングを見計らわざるをえなかったのだが、
そこにはいつもと違った意味合いがあった。
いつもは、まったくのところ、じぶんのため。
きょうは、まったくのところ、アメ(甥、8歳)のため。
耳がとおくなり状況を把握することがややむつかしい84歳の祖母、
ゲームを独占したくなってしまうツキ(姪、5歳)、
「ひいばあちゃん」よりずっとよく状況を理解していて、ツキよりもがまんのきくアメ
の3人が同じ場にいて、
よくわかっていない祖母から理不尽ながまんを強いられたアメ。
とうとうさいごに爆発してしまう。
ことばをつくらないアメのへんな叫び声、
「かえれ!」という彼の日本語に、
84歳の老婆の号泣がつづき、
しずまりかえった様子をききとって、
わたしはゆっくり部屋を出た。
アメは二階へあがってきて、椅子に座ってひくひくとしゃくりあげている。
しゃくりあげながら、左手の人差し指の背中を噛んでいる。
ツキは彼の横の、一歩はなれたところでなにも言えずにいる。
祖母はかえってしまった。
わたしはアメの座っているおおきな椅子の後ろのすきまに入ってすわり、
アメの肩と背中をゆっくりさすった。
アメもわたしもなにもいわないので、ツキはただじっとだまって観察している。
アメのからだの力がすこしゆるんで、
アメは「ちょっとねる」と言って降りて行った。
アメは少し眠って、回復した。
「おにいちゃんでしょ」
「おねえちゃんでしょ」
アメのためじゃない、わたしのためだ。