朝、東京へ向かった。
新幹線のなかで、うとうととしていると、携帯電話がぶるぶる鳴る。
とろうとおもったら、電源がきれた。
このごろ携帯電話の調子がわるいから、
ひととの約束はちょっとだけ、いちかばちか、なところがある。
電源をいれなおすと、さっきの電話は伊集院くんからだった。
メールも2件。伊集院くんから。
「ピーコ、今日東京きてるの?さっき電話したけどつながらなかった」
「新幹線かしら」
「うん、ちょっと携帯電話のちょうしがわるいのよ 昼すぎに東京について、
ゆうがたタカ・イシイへいくの それからタケ・ニナガワのオープニングにゆく予定よ
清澄白河であえるかしら」
「そうね 清澄白光で 会えたら良いね」
「白光」って、わざとなんだろな 伊集院くんは
と思い、電池の節約のために電源を切った。
わたしはひとり、清澄庭園の角にある図書館で、しばらくぼんやりとして、
そのまた向かいに偶然みつけたお店で、お茶を2種類買う。
お茶の葉をながめていたら、何かちょっとざわめくものがあったので。
タカ・イシイギャラリーで、まり姉とおちあった。
伊集院くんの作品を、だまってみる。
伊集院くんの作品は、とてもここちよく、とてもしずかな世界へ、
わたしたちを連れて行ってくれた。
ここへくると、どんなときでも、しずかにわたしを癒し、
ふかく満たしてくれるような場所。
その場所を、この色を、形を、光を、わたしのこころの中に、しまっておこう と思った。
いつでも、ここへ帰ってこれるように。
だから、じっとずっと、みていた。
まり姉も、なんとなく、そんなような感じだった。
伊集院くんはすこし遅れてやってきた。
「いいね、作品」と伝えた。
口では、そのくらいのことを言うのがやっとだ。
伊集院くんは、今夜のうちに京都へかえるという。
レイさんの誕生日を祝うパーティのために。
レイさんは、もう生きてはいないけど。
わたしとまり姉は、あやねの作品を見に、移動した。
電車のなかで、近況をぼつぼつと語りあったりして。
まり姉のさいきん通っている美容室の美容師さんがいかにすばらしいか。
「じぶんで髪を切ってったりするとね、『それ、いいね〜!!』って、
すんごい嬉しそうに褒めてくれるんだよ」
「そんなひとなら、ちょっと切ってもらってみたいな」
あやねの個展会場はすこしにぎやか。白ワインをいただく。
いままでみたことのないような変化が、あやねの絵にうまれている。
あたらしい世界。
むずむずとわきたつようで、でも、やさしく、かぎりなくちかしい世界。
それは、わたしがいつも、あやねというひとそのものに感じていることだ。
かぎりなくちかしい。
かな子さんにも、またここで会えた。
みんなで食事。
レイさんの誕生日で、満月で、月蝕で、赤い月がでていて、
いままで知らないものどうしだった西のともだちと東のともだちがいりまじり、
すべてが満ち満ちるような夜だった。