なつかしいひとからメールがきていた。
春田さんは春に展覧会をひらかせていただいたギャラリーの担当のひとだったけど、
ちょっとそのへんで出会えないような、おもしろいひとだった。
展覧会の初日、春田さんがわたしに話すには、
「あのね、わたし、さいしょにピーコさんにあったとき、前歯、なかったでしょう。
あれね、もう、3年ぐらいまえから、なかったんですよ。
それでね、もう、自分ではすっかり慣れちゃってたから、なんとも思わなかったし、
隙き間からうどんを出したりして遊べるから好きだったんだけど、
友達に『明日差し歯をいれなければ絶交する』って言われて、仕方なく、いれたんですよ。
もう、嫌で嫌でね。
歯医者に行ったら、『とりあえず、その不細工を直しましょう』って、
借り歯を入れることになって。
不細工不細工って、5回ぐらい不細工って言われましたよその日。
でもね、歯を入れたら、顔も変わっちゃって、自分じゃない気がして、
もう嫌で嫌で、泣いたんですよわたし。
もう、うどんを出して遊べないし。
でも、友達から、『歯が無い自分の方が良いなんていうことは、絶対にありえないん
だよ!』
って言われて。
今はようやく、ちょっと慣れて来たんですけど。
この間、よそのギャラリーのスタッフの人に会って。
その人には、前々から、『歯の無いギャラリースタッフなんて、絶対に信用してもらえないから!』
って言われ続けてたんですよ。
それで、その人にあったときに『やっと僕の言う事を聞いて、歯を入れたんだね』
って言われたんですけど、ちがうんですよ。ノリでいれただけなんです」
ああ、わたし、この人すきだわって思ったのだったけど、
その春田さんから、
「今展示されている作家さんとピーコさんは、私の中で安心感があって、雰囲気がにています
優しい気持ちですごしてます」
というメールをもらって、
このごろずっとこころをとざしてぎすぎすと暮らしていた自分をまたはずかしく思ったのだった。
春田さんと一緒にすごした春の2週間は、
ほんとうにやさしい日々だったなあ とおもいだしていた。
裏手のカフェに飾られている春田さんの切り絵にそえられていた、
"hanuke no haruta " (歯抜けの春田) っていうサインにびっくりしたことも、
おもいだしていた。