2011年8月23日火曜日

8月22日

朝、「柳田はブラジルからまだ帰ってこないのだろうか」と思っていたら、
「帰って来ました」というメールが来た。

この国で暮らしていたら一生出会わないような光景をうしろにして、
はじけとぶような顔した写真がぞくぞくと送られてくる。
なんだか正体のわからない、ものすごく派手で巨大な女の人形と並んでいたり。

「あたし日本で鬱々としてたわよ なんかぜ〜んぶふりきりたい、その巨大女みたいに!」
とおもわず語気荒く返信した。

いつものように夜になって、
この後仕事をつづけるにはお腹が減り過ぎたなと思い、
近所のスーパーへおむすびを買いに行く。
社長には、おかかのおむすび。(ちりめん山椒のが無くて)
まみこさんには、うめぼしのおむすび。(ちりめん山椒のが無くて)
わたしは、明太子のおむすび。(お昼にうめぼしのを食べたので)

支払いを終えて、3つのおむすびをエコバッグにすべりこませていたら、
「アンタ!なにしてんのよ!」
という、ひくく響いて粘り気のある声が。
柳田である。

おもわず、「ぎゃーっ」と叫びながら、お客さんが買った品物をビニール袋に詰めたりする
あの台の前で、ぎゅーっと抱き合う。
「おかえりーーー」
「かえってきたわーーー」
「今日帰ってきた?」
「そーよ、朝アンタに送ったメール、空港からやってんから」

スーパーを出て、自転車を押す柳田とゆっくり歩きながら話。
わかれるまえの角で立ち話。

「なんかさー、あっちって、ゲイがもう、めっちゃくっちゃ多くって、
オネエ系のゲイの軍団なんかが、ふつうに、ライヴとか聴きにきてて、ふつうに混じってて、
で、足が切断されてて松葉杖ついてるオネエ系のわかいゲイの子なんかも居んのよ。
ほんで、年取ったおばちゃんとかも、もうみんな一緒に、音楽きいて踊り狂ったりするのよ。
そのなかにホームレスが混じってて、物乞いしてきたりもするしさ。」

そういう話をするときの表情とか語りかたにおいて、
ちょっと類を見ないうまさのある柳田の技にまけて、
不覚にも涙がにじんでくる。
まあ、夜だし見えないでしょう。

「で、その後みんなどうしてんの。へろへろになっちゃったり、してんの?」
「うーん、どうかなあ。。。ゆうこちんにメールしたら、妙に明るい返事がかえってきたけど。。。。」
「ふーん、そうなんだ。。。。あー、アタシも、なんかこの後やだわー。。。」
「リバウンドがくるかもって?」
「うん、そう」
「生徒に癒されなよ」
「うん、まー、そーなんだけどー」
「生徒がいるから」
「うん、まーね。。。」
柳田は誇り高き教師なのだ。

「また、納涼パーティとかするわ。アンタもあそびにきなさいよぉ」
「うん、うん」

ちりんちりーん、ちりんちりーん、と2回ベルを鳴らして、柳田は行った。
「さみしくなったら、あたしに電話すれば」と言いそうになったが、
たぶんそういうときに柳田のもとめるのはわたしではないのである と思って
よしておいた。
to put on or not